大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所 昭和41年(ワ)164号 判決

原告 佐藤昇 外一名

被告 東北東映興業株式会社

主文

1  被告と原告両名との間にそれぞれ雇傭関係が存在することを確認する。

2  被告は、原告佐藤に対し七一万円及び昭和四四年三月から毎月二五日限り二万円を、原告持地に対し七九万五、二〇〇円及び同年三月から毎月二五日限り二万二、四〇〇円をそれぞれ支払え。

3  原告両名のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  第二項は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

一、原告両名

1  被告と原告両名との間にそれぞれ雇傭関係が存在することを確認する。

2  被告は原告佐藤に対し三六万三、三八四円及び昭和四二年三月から毎月二五日限り三万〇、二八二円を、原告持地に対し四一万〇、一七二円及び同月から毎月二五日限り三万四、一八一円を各支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第二項につき仮執行の宣言

二、被告

1  原告等の各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告等の負担とする。

第二、当事者双方の主張は別紙のとおりである。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、被告会社が劇場経営広告業等を目的とし、東北地方において原告主張の劇場を経営していること、原告両名がいずれも被告会社へ入社してその従業員の資格を取得し、福島東映労組の組合員となつたこと及び被告会社が原告両名に対しそれぞれ昭和四一年二月二〇日到達の書面をもつて「業務上の都合により解職する」との意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

二、そこで以下本件解雇の意思表示の効力につき判断する。

1  (労働基準法二〇条違反の主張について)

成立に争いのない甲第二、三号証、同第三六号証、同第四二号証、乙第一号証、同第七、八号証及び原告本人両名の各供述により真正に成立したと認められる甲第二二号証の二並びに証人本郷武郎、同内山勝男及び同青木弘の各証言及び原告持地照夫本人の供述(ただし後記採用できない部分を除く)を総合すると、被告会社取締役本郷武郎は、昭和四一年二月二一日午前一〇時頃、福島市宮町所在の福島東映劇場において、同劇場の全従業員に対し、福島東映劇場を閉館せざるをえない事由を説明したうえ、「同四一年二月一五日をもつて福島東映劇場を閉館する。閉館に伴い従業員全員を同月二〇日付で解雇する。給料は一か月分保障する。退職金は会社の都合により計算して同月二〇日給料と一緒に支払う。」と述べ、解雇予告の意思表示をしたことが認められ、右認定に反する証人山田邦夫、同神中貞夫、同植田泰治、同宍戸利夫、同持地キクの各証言部分及び原告両名本人の各供述部分はいずれも前掲証拠にてらして採用できないし、他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、本件解雇についてはいずれも労働基準法二〇条所定の解雇予告がなされていることが肯認できるので、同条違反の違法があるとする原告の主張は失当である。

2  (人事協議約款違反の主張について)

成立に争いのない甲第八号証には、昭和三七年一二月二八日被告会社福島東映劇場支配人田中馨と福島東映労組執行委員長持地照夫との間で「組合員の解雇転勤に関しては、組合と事前に協議する。」との協定が締結された旨の記載がある。以下田中支配人に本件人事協議約款の締結について被告会社を代理する権限があつたか否かを検討する。

(一)  まず、被告会社劇場支配人に一般的に人事協議約款を締結する権限があるか否かにつき判断するに、証人原田裕平は支配人は直接その劇場を支配しているので人事協議約款を締結する権限があつたと思つた旨証言し、証人山田邦夫・同神中貞夫もほぼ同旨の証言をしているが、それらの証言は推測の域を脱しておらないのみならず、前掲乙第七、八号証、成立に争いのない同第九、一〇号証、証人田中馨の証言、同証言により成立の認められる乙第五号証、証人渡辺武夫の証言、同証言により成立の認められる乙第六号証、証人本郷武郎、同青木弘の各証言によれば、被告会社は劇場支配人に、女子臨時雇員の採用解雇の権限を与えているが、他の職員の採用解雇の権限は与えていないことが認められるので、右証人原田、同山田、同神中の各証言をもつて直ちに劇場支配人に人事協議約款締結の権限があると認めることはできず、又成立に争いのない甲第一二ないし二一号証によれば、原告主張のように、被告会社福島東映劇場支配人は福島東映労組の執行委員長と賞与、定期昇給などについて協定を締結していることが認められるが、これらの協定はいずれも被告会社職員の解雇に関するものでなく、前掲乙第六、七号証、証人渡辺武夫、同青木弘、同本郷武郎の各証言及び原告持地本人の供述によれば、賞与、定期昇給などの要求が組合から提出されると、劇場支配人はその都度被告会社の責任者に連絡し回答をえたうえで協定を結んできたことが認められるので、原告主張の協定締結の事実をもつて直ちに劇場支配人に人事協議約款を締結する権限があると認めることはできず、他に劇場支配人に右権限のあることを認めるに足りる証拠はない。

(二)  次に、本件人事協議約款締結について田中支配人に特別の授権がされていたか否かにつき判断するに、前掲甲第八号証、乙第五号証、成立に争いのない甲第九、一〇号証、原告持地本人の供述、同供述により成立の認められる甲第五ないし七号証、証人原田裕平の証言、同証言により成立の認められる甲第一一号証の三及び証人田中馨の証言によれば、同三七年一二月二〇日福島東映劇場、福島駅前東映劇場の従業員中一八名が福島東映労組を結成し、翌二一日同労組持地委員長は人事協議約款の締結、組合事務所の貸与、交通費支給などを要求する要求書(甲第五、六号証)を田中支配人に提出し、同支配人は右要求書の内容を被告会社の責任者である取締役細江朝光に連絡した後、同月二八日福島東映劇場において、福島東映労組執行委員長持地照夫、全東映労連議長原田裕平等を相手として、交通費の八割支給等を内容とする確認書(甲第九号証)、福島東映労組の事務所の使用についての確認書(甲第一〇号証)及び本件人事協議約款の協定書(甲第八号証)に調印したことが認められるが、前掲乙第五号証、同第九号証、証人田中馨の証言、同証言により成立の認められる乙第二〇号証によれば、田中支配人が被告会社細江取締役へ東映労組の要求を電話連絡したところ、同取締役から就業規則で決つているものはよいがそのほかは承認してはいけない旨抽象的な回答をえていたこと、田中支配人は、甲第八号証に捺印する権限がないと考え、その捺印を拒否したが、原田裕平から盛岡東映劇場でも捺印しているからかまわないと言われ、又時間も翌二九日午前一時頃になつたうえ、病弱であつたため、疲労も重なり、遂に捺印したこと、田中支配人は、同日堀江取締役にこの旨報告したところ、権限のないことをしてはいけない、すぐに人事協議約款(甲第八号証)を撤回しろと言われ、同日原田裕平に撤回の意思表示をしたことが認められるので、堀江取締役がとくに田中支配人に人事協議約款締結の権限を与えたとは認め難く、又証人本郷武郎の証言により成立の認められる乙第一四号証によれば、被告会社と盛岡東映労組間の人事協議条項を含む労働協約は被告会社取締役社長大川博名義で締結されていることが認められ、被告会社としては人事協議約款のような重要な協約を締結する権限を劇場支配人に委任することはまずありえないと推定されるので、前記認定の甲第八号証の作成経緯をもつてしても、田中支配人に本件人事協議約款を締結する権限が与えられていたと認めることはできない。

証人深谷栄作は、大和志子が定年退職するとき本件人事協議約款にもとづいて被告会社と福島東映労組とが協議した旨証言し、原告両名も同旨の供述をしているが、これらは証人渡辺武夫の証言にてらして措信できず、他に田中支配人に本件人事協議約款を締結する権限があつたことを認めるに足りる証拠はない。

(三)  原告は、同四一年一月二三日の団体交渉において、被告会社福島東映劇場支配人青木弘が福島東映労組に対し本件人事協議約款を尊重する旨約したと主張し、これにそう証拠として前掲甲第二二号証の二、同第三六号証、証人宍戸利夫の証言、原告本人両名の供述があるが、これらは、組合を尊重すると言つた旨の証人青木弘の証言、組合の意見は尊重する、組合の要望は大事にすると言つた旨の証人植田泰治の証言にてらして措信できないし、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(四)  よつて本件人事協議約款が有効に締結されたことを認めるに足りる証拠がないので、原告の人事協議約款違反の主張はすすんでその余の点を判断するまでもなく失当である。

3  (不当労働行為の主張について)

(一)  (東映株式会社と被告会社を含む系列会社との関係について)

東映株式会社が昭和二六年二月設立され、被告会社を含む四〇数社の系列会社を有し、その主な会社が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第四三ないし四八号証、同五〇号証の一ないし三、同第五一ないし五六号証、同第五九号証、証人本郷武郎の証言、同証言により成立の認められる乙第二号証の一ないし三、証人渡辺繁信、同渡辺武夫、同川口文雄の各証言によれば、次の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 被告会社を含む原告主張の映画興業部門の各系列会社の資本金は、東映興業株式会社が一、四五〇万円であるが、その余はいずれも五〇万円にすぎず、その株式は東映興業株式会社の一部を除きすべて東映株式会社の所有に属し、各系列会社が経営している各劇場の土地建物は賃借館を除きすべて東映株式会社の所有に属する。

東映株式会社は各劇場の経営をすべて系列会社に委託しており、その内容は、各劇場の全収入が東映株式会社に入り、受託会社には経費の実費プラス利益金の〇・一%相当額が委託手数料として支払われ、したがつて、受託会社自体に赤字を生ずることはなく、しかも収支については、東映株式会社に対し、受託会社が経営を担当する各劇場ごとのそれを報告することになつている。

右各系列会社の代表者はいずれも東映株式会社代表取締役である大川博が兼任し、他の取締役もすべて東映株式会社の役員によつて兼任されており、それらの取締役には系列会社から全く報酬を受けていない者がある。又、右系列会社は独立して事務所をもつているものはなく、労務担当の事務は東映株式会社の労務課の係員が、健康保険関係の事務は東映株式会社の厚生課の係員が、その他の事務は東映株式会社の興業部の係員がそれぞれ担当している。被告会社には、専任の課長(兼務課長)が一名いるだけで、東映株式会社興業部の隣に席を設けてあるが、その課長も被告会社のみならず、関東管内担当として、東映興業、株式会社浅草東映劇場、信越東映興業、東海東映興業のそれも兼務し、その給与は東映株式会社から出されている。そして公式的にはともかく、日常の社内事務の処理および従業員の意識の面においては、東映株式会社を中心とする系列会社間が一体のものとして受けとられている。

(2) 東映株式会社は、昭和三八年からボーリング場経営に重点をおき、株式会社福島東映ボーリングセンターを含む原告主張の各系列会社が設立されたが、その経営資金はすべて東映株式会社の資金であり、このボーリング事業もまた東映株式会社が各系列会社に経営業務を委託している。したがつて、各ボーリング場の全収入はすべて東映株式会社に入り、各系列会社には東映株式会社から委託手数料が支払われている。

右認定の各事実によれば、被告会社を含むその余の各興業会社はいずれも東映株式会社の各地方の劇場およびボーリング場経営部門を法的に独立させた会社にすぎず、法人格こそ異なるが、その経済的、社会的実体は単一の東映株式会社という企業体そのものにほかならないといつても過言ではない。

(二)  (福島東映劇場の閉館について)

前掲甲第二号証、同第四七号証、同第五九号証、乙第二号証の三、同第七号証、成立に争いのない乙第四号証、同第一八号証、同第三〇号証の一ないし四の各二、証人本郷武郎の証言、同証言により成立の認められる乙第二号証の四、同第三号証の一ないし八、証人青木弘、同渡辺繁信の各証言によれば、次の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 映画興業界の営業成績はテレビの影響により昭和三四―五年をピークに下り坂の一途をたどつている。

(2) 東映株式会社は同三五年六月二八日福島東映劇場の経営を被告会社に委託した。同劇場の経営は、被告主張のとおり、同三五年上期に九万五、五八〇円の黒字であつたのみで、その後はすべて赤字であり、同四〇年下期では赤字累積が一四〇〇余万円に達することが予想され、観客動員数をとつてみても、同三五年上期を一〇〇とすると、同四〇年下期は二五となり、改善される余地はなく、全国的にみても営業成績が悪い劇場であつた。

(3) 東映株式会社は、各劇場の独立採算制を推し進める見地から、赤字劇場全廃を経営方針にかかげ、その具体的実践にのり出した。同四〇年初めごろ以来東映株式会社代表取締役大川博から福島の成績がよくないので対策を考えるよう指示されてきていたが、同四一年一月七日東映全体会議(東映株式会社とその系列会社の首脳が一堂に集まる会議)において、同人が強く福島の東映直営劇場の赤字経営の解消を指示し、同月一一日東映株式会社直営館対策委員会(直営劇場の獲得、賃借、運営などの基本的事項を決める委員会で、東映株式会社の営業本部長、営業部長、興行部長、技術本部長、経理部長、総務総合調整部長により構成される。)が開かれ検討した結果、福島市に二館の直営館をおくのは得策ではなく、立地条件のよい福島駅前東映劇場を封切館として残し、福島東映劇場を閉館するとの結論に達し、同日被告会社に対する福島東映劇場の営業業務委託契約を解除することに決定し、その旨被告会社へ伝達し、同月一七日、自問自答ではあるが、被告会社は右解約に同意し、同年二月一五日同劇場を閉館し、その土地建物を東映株式会社へ返還した。

(4) 福島東映劇場の閉館後、福島駅前東映劇場は営業成績が上昇し、同年八月には同劇場開設以来の業績を示すに至つた。

右認定の各事実に、福島東映劇場は営業成績がいいとは思わなかつたとの証人植田泰治の証言、同劇場の閉館はやむをえないと思つた、ただ身分保障だけしてもらいたかつたとの原告持地本人の供述を合せ考えると、福島東映劇場の閉館はやむをえないものといわざるをえない。

(三)  (不当差別の主張について)

前掲甲第二、三号証、同第七、八号証、同第二二号証の二、同第三七号証、乙第七、八号証、成立に争いのない甲第三九、四〇号証、乙第一二号証、同第一七号証の一、二、証人持地キクの証言、同証言により成立の認められる甲第五八号証、証人本郷武郎、同青木弘、同内山勝男、同神中貞夫、同植田泰治、同山田邦夫、同宍戸利夫の各証言及び原告本人両名の各供述(ただしいずれも後記採用できない部分を除く。)を総合すると、次の各事実が認められる。

(1) 福島東映劇場の原告両名以外の非組合員である従業員の閉館後の就職状況は次のとおりである。即ち、内山勝男は被告会社の本郷取締役の斡旋により閉館後すぐに清水建設株式会社に入社し、福島東映ボーリングセンターの建築工事現場で雑役として働いていたが、同四一年七月一七日株式会社福島東映ボウリングセンターの面接試験をうけて同社に入社し、千枝八郎(旧姓菅野)は閉館後福島駅前東映劇場に臨時雇員として勤務し、高橋勝躬は胃潰瘍のため一時静養していたが、両人とも内山と同様株式会社福島東映ボウリングセンターの面接試験をうけて同社に入社した。丸山キチは同本郷取締役の斡旋で清水建設株式会社に入社し、福島県興行協会に移り、同年夏福島駅前東映劇場の青木支配人の世話で同劇場に勤めた。前田道路子は福島駅前東映劇場に勤めた。佐々木千代子は右青木支配人の世話で福島市内の万正堂万年筆店に勤めた。その後同女は青木支配人から福島駅前東映劇場に勤める意向があるかどうか尋ねられたが、同万年筆店に続けて勤めることにした。高島佐代子は結婚するため就職しなかつた。

(2) 内山勝男、高橋勝躬、千枝八郎は、同年二月一五日福島東映劇場閉館の際、田中支配人の指示により、早朝から東映株式会社内田管理課長代理とともに同劇場内にとじこもり、入口の扉をロープでしばつて福島東映労組の組合員等の同劇場への立入りを禁止したのであるが、右内山、高橋、千枝が株式会社福島東映ボウリングセンターに入社するについては本郷取締役の口添えがあつた。右内山は、同社の入社試験前である同年五月七日、ボーリング場建設現場の清水建設株式会社の事務所前で、全東映労連事務局長小松茂に対し、ボーリング場が建設されたらそこで働くことになつていると話したことがあつた。

(3) 被告会社本郷取締役は、同年二月一五日福島市内の千代寿司の二階において、原告持地の両親に対し、「養子というものは親から強いていわれれば大抵親のいうことを聞くものだ。それで是非お母さんから説得して組合から手を引かせてくれ。手を引かせてくれるなら、仕事は何んとかする。福島東映劇場閉館後何かになつたら、そこに新たに応募させて優先的に採用してもよい。」と、また「高橋、内山は閉館解雇を認めてくれたから、新たに何かできたときは応募させて優先的に採用する。」と語つた。

(4) 郡山東映劇場は同年五月九日劇場の賃借期間満了により閉館したが、その際被告会社の本郷取締役は、従業員を株式会社福島東映ボウリングセンターに応募させて優先的に採用してもよいと郡山東映労組に話したことがある。

(5) 原告両名は、同年一月二一日解雇予告がなされるや、すぐに福島地区中小企業労働組合連合(以下地区労という)及び全東映労連に連絡し、同月二三日全東映労連の植田泰治、地区労の宍戸利夫等とともに福島東映劇場青木支配人に対し交渉し、同年二月一日には全東映労連の神中貞夫等とともに本郷取締役と団体交渉をした。同月五日被告会社は、東映労組の団体交渉の申込を拒否し、原告両名に対する就職斡旋の意思のないことを明確にした。同月一六日午前〇時五分から本郷取締役と原告等は団体交渉をした。その間被告会社は閉館解雇を認めなければその後の点は話し合わないという態度をとり、福島東映労組側は身分保障の点が明確になつてから閉館の問題に入るとの態度をとつたため、両者の交渉は妥結するに至らなかつた。

右認定に反する証人本郷武郎、同青木弘の各証言部分及び原告本人両名の各供述部分は前掲証拠にてらして採用できないし、他に右認定に反する証拠はない。

右認定の諸事実に前掲甲第四二号証(東映株式会社興業部長が各劇場支配人に出した〈秘〉昭和四一年二月二日付興業労務情報―福島東映劇場閉館とその状況について―と題する文書)の「閉館に際して一番問題になるのは従業員の身のふり方と考えられます。これがうまくゆけば松江東映劇場の如く問題なく閉館できますが、福島東映劇場の如く組合があつたりすると外部からの応援もあつて、まとまる話もまとまらなくなり、なかなかスムーズに事が運びません。しかし会社は、いつの場合にも常に従業員のためにできるだけの配慮をしておりますし、今後も又できるだけの面倒をみてゆこうと考えております。福島東映劇場閉館に際し、同劇場労組から事実無根の会社を中傷したビラや組合結成を呼びかけるビラが各劇場に送付されることと思いますが、各支配人におかれましては、「従業員の面倒はできる限りみる」という今迄の会社の方針に変更がないことを充分に説明され、組合結成等がおこらないよう配慮して頂きたいと思います。」「以上の如く、福島東映劇場閉館に関しては、わずか二名の組合員が外部によつて踊らされているだけで、残り七名の従業員は会社を信用し、さびしいことながら閉館の来る日を静かに待つています。『従業員の面倒はできる限りみる』という会社の方針は変りありませんが、会社を信頼しきつているこれら大部分の従業員に対しては、会社は最後迄できる限りの面倒をみてあげたいと考えております。」との記載、証人本郷武郎の「一月二〇日現在では原告両名に対し就職の斡旋をしようと考えていた。一月二三日原告両名が閉館、解雇反対を訴えているとの報告をうけ、この時点で就職の斡旋の意思をなくした。三月二日の団交は全東映労連が入れば開かないということで開かなかつた。私は全東映労連を認めていないので会う必要がないと思つた。全東映労連が福島東映労組の上部団体であることは知つている。」との証言と前記認定の東映株式会社とその系列会社との緊密な関係を合せ考えると、福島東映劇場の非組合員たる従業員の就職の斡旋は、東映株式会社の基本方針に則り被告会社がこれを行い、従業員に東映系列会社に就職する意思があればいずれも東映系列会社に就職させたことは、これを法的にみれば、右従業員を別人格である東映系列会社に新たに就職させたということになろうが、これを経済的社会的にみれば、東映株式会社なる単一の企業体内における右の従業員の配置転換にすぎないとみることができる。そして、右就職斡旋は非組合員の解雇の条件となつていたのであるが(被告は無条件で解雇を承認した者に対し就職を斡旋したと主張するが、ことばのあやにすぎず、実質は右のとおりである。)、原告両名に対しては閉館解雇反対等の組合活動をした故をもつて、かかる条件なく単に解雇の意思表示がなされたことが肯認されるので、前記認定の福島東映劇場の閉館事由を考慮しても、原告両名に対する本件解雇の各意思表示はいずれも労働組合法七条一号の不利益取扱に該当し無効といわざるをえない。

なお、被告会社は原告両名が同四一年一月二〇日本件解雇につき事前に了承した旨主張し、前掲甲第二、三号証、乙第七、八号証、証人本郷武郎、同青木弘の各証言及び原告本人両名の各供述を総合すると、被告会社の本郷取締役は、同年一月二〇日夜、福島市内の千代寿司の二階において、酒をくみ交しながら、原告両名に対し、福島東映劇場の閉館事由を説明し、全従業員にやめてもらう旨告げたうえ、就職斡旋は責任をもつてする、特に福島駅前東映劇場に希望退職する人がいたら、そのあとに原告両名を世話してもよいと話し、原告両名が宜しくお願いしますと答えたことが認められるが、地方館の一映写技師である原告らが本社の部長と席を同じくして語りあうのは初めての経験であつたのであり、閉館の通告は青木支配人すら全く予想していなかつたものであるうえ、同日は酒をくみ交しながらの話であり、同月二三日原告両名が抽象的な就職斡旋の話に危惧の念をいだき身分保障を求めて青木支配人に対し右の了解を撤回したことが認められ、原告両名の右の了解は軽率のそしりは免れないが、確定的意思にもとづくものとはいい難いので、これのみをとらえて前記不当労働行為の認定を左右することはできない。

三、以上の理由により、その余の点を判断するまでもなく、原告両名に対する本件解雇の各意思表示はいずれも無効であるから、被告会社と原告両名との間にはそれぞれ雇傭関係が存続するということができるので、その確認を求める原告両名の各請求はいずれも理由がある。

次に、本件解雇の意思表示がなされた当時、原告佐藤が一か月二万円の、原告持地が一か月二万二、四〇〇円の各基準賃金(いずれも前月一六日から当月一五日までのもの)を毎月二五日に被告会社から支給をうけていたことは被告会社の認めるところであり、その余の原告両名の主張部分はこれを認めるに足りる証拠がなく、又被告会社が原告両名に対し同四一年三月一日以降の賃金を支払つたとの主張立証もない。

右認定事実によれば、被告会社は、原告佐藤に対し履行期の到来している同四一年三月一日から同四四年二月一五日までの賃金七一万円及び同年三月以降毎月二五日限り賃金二万円を、原告持地に対し履行期の到来している同四一年三月一日から同四四年二月一五日までの賃金七九万五、二〇〇円及び同年三月以降毎月二五日限り二万二、四〇〇円をそれぞれ支払うべき義務があるといわなければならないので、原告両名の賃金の支払を求める各請求はいずれも右限度において理由があり、その余の部分は失当である。

四、よつて、原告両名の各請求は右の限度においてこれを認容し、その余の部分を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但書、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 丹野達 佐藤貞二 堺和之)

(別紙)

当事者双方の主張

原告

被告

第一、(当事者)

一、被告は劇場経営広告業等を目的とする会社であり、東北地方に十数館の劇場を経営し、福島市内においては昭和四一年二月一四日まで福島駅前東映劇場と福島東映劇場の二館を経営し、同月一五日以降は福島駅前東映劇場を経営している。

第一の一の点は認める。

二、原告らは被告会社の従業員であり、福島市内の東映劇場の従業員をもつて組織する福島東映労働組合(以下福島東映労組という)の組合員で、原告佐藤は福島東映労組執行委員長であり、原告持地は同労組の執行副委員長である。

同二の点につき、原告らが被告会社の従業員であつたこと及び福島東映労組の組合員であつたことは認める、その余は否認する。

第二、(解雇の意思表示)

被告会社は原告両名に対し、それぞれ同四一年二月二〇日到達の書面をもつて、「業務上の都合により解職する」との意思表示をした。

第二の点は認める。

第三、(解雇の意思表示の無効)

本件解雇の意思表示はいずれもつぎの理由により無効である。

第三の前文の主張は争う。

一、(労働基準法二〇条違反)

本件の各解雇の意思表示は労働基準法二〇条所定の解雇予告がされていないのでいずれも無効である。

一の主張は争う。

1の点につき、被告会社の本郷取締役が福島東映劇場の全従業員に対し、「昭和四一年二月一五日をもつて福島東映劇場を閉館するから転職、退職するように。」と言つたことはあるが、解雇予告の意思表示はなかつた。

(被告の主張)

1 被告会社は、同四一年一月二一日原告両名に対し解雇予告をしている。即ち、被告会社取締役本郷武郎は、同日、原告両名を含む福島東映劇場全従業員九名を同劇場に集め、「昭和四一年二月一五日をもつて福島東映劇場を閉館する。閉館にともない全従業員を解雇する。給与は本日より一か月分保障する。退職金は会社の都合により計算して二月二〇日に同日までの給与と一緒に支払う。」と述べて解雇予告をし、「退職後どうしても行先のない者は支配人を通じて申し出れば就職斡旋につき努力する」と付言した。

2の(一)の点につき、被告主張の団体交渉が行われたことは認めるが、その余は争う。

2 仮に右1の解雇予告が認められないとしても、

(一) 被告会社取締役本郷武郎は、同四一年二月一日から同月二日にかけて行われた団体交渉の席上において、原告両名に対し、「同年二月一五日をもつて福島東映劇場を閉館する。同月二〇日原告両名を解雇する。予告手当は支払わない。退職金は会社の都合によつて計算して支払う。」と発言し解雇予告をし、

(二)の点につき、原告持地に対し被告主張の解雇予告の意思表示がなされたことは認めるが、その余の点は否認する。

(二) 更に本郷取締役は、同月二日、福島市内の恵比寿旅館において、原告持地に対し前同旨の予告をし、原告持地を通じ原告佐藤にも同旨の予告をした。

(三)の点は争う。

予告手当の支払又は提供は、解雇の意思表示の効力発生要件であり、解雇の意思表示とともに予告手当の提供を要すると解すべきである。

(三) 右(一)、(二)の解雇予告は一二日間予告期間が不足しているが、これは被告会社に一二日分の予告手当の支払義務を負担させるにすぎず、解雇を無効とするものではない。

仮に右の見解をとることができないとしても、本件解雇は劇場閉館に伴うものであつて、被告会社は同四一年二月二〇日の解雇を固執するものでないから、同日から一二日間を経過した同年三月四日に解雇の意思表示の効力が生じ、本件解雇の意思表示が無効となるものではない。

3の主張は争う。

3 仮に原告佐藤に対する解雇予告がなされなかつたと認める余地があるとしても、

(一) 被告会社が三〇日分の予告手当の支払義務を負うにすぎず、本件解雇の意思表示を無効とするものではない。

(二) 仮に右見解をとりえないとしても、同四一年二月二〇日解雇の予告があつたとして、同日から三〇日を経過した同年三月二二日解雇の意思表示が効力を発生するにとどまり、本件解雇の意思表示の効力そのものが否定されることはない。

二、(人事協議約款違反)

昭和三七年一二月二八日、福島東映労組執行委員長持地照夫と被告会社福島東映劇場支配人田中馨との間に、「組合員の解雇・転勤に関しては事前に協議する」との協定(甲第八号証、以下本件人事協議約款という)が締結されている。そして、本件解雇の意思表示は、右協定にもとづく協議を経ずになされたものであるので無効である。

二の前文の主張は争う。

1 本件人事協議約款は有効に成立している。即ち、田中支配人には被告会社を代理して本件人事協議約款を締結する権限があつた。このことはつぎの各事実から明らかである。

(一) 本件人事協議約款と同時に福島東映労組執行委員長持地照夫と田中支配人との間で締結された交通費の支給、女子ロツカールーム・更衣室の設置、組合事務所貸与に関する協定(甲第九、一〇号証)は実施されている。

(二) 昭和三八年三月本件人事協議約款にもとづき被告会社と福島東映労組とは組合員大和志子の退職につき協議している。

(三) 被告会社福島東映劇場支配人渡辺武夫は、福島東映労組持地執行委員長に対し「夏期賞与に関する会社の考え方について」と題する通知(甲第一二号証)をし、同委員長との間で、同三九年一一月二〇日昭和三九年度冬期賞与についての協定(甲第一四号証)を、同年一二月一八日自転車手当の支給についての協定(甲第一五号証)を、同四〇年六月一四日昭和四〇年度の定期昇給についての協定(甲第一七号証)及び女子停年制を三〇才まで延長するとの協定(甲第一八号証)をそれぞれ締結している。

(四) 被告会社福島東映劇場支配人青木弘は、同四〇年一一月二六日、福島東映労組執行委員長佐藤昇との間で昭和四〇年下期賞与についての協定(甲第一九号証)を締結し、同四一年二月一七日、同委員長に対し「団体交渉の要領」と題する通知(甲第二一号証)を発している。

右通知は被告会社から権限を有する役員が福島市に来ているのに青木支配人名義でなされている。

1の点につき、田中支配人には被告会社を代理して本件人事協議約款を締結する権限はなかつた。即ち、被告会社の劇場支配人は一般に極めて限られた権限しか有せず、臨時雇員の採用権を除き人事権は全くなく、団体交渉権も有しないので、解雇・転勤に関する協定書に捺印する権限はない。

よつて本件人事協議約款は無権代理行為として無効である。

原告が主張する協定通知などは、人事基準争議条項等を定めた労働協約と異なり、すべて昇給賞与に関する被告会社の回答であつて、すべて被告会社の指示にもとづいてなされたものである。一般に組合からの要求書が提出されると、「本社の指示があるまでまつてくれ」という支配人回答がなされ、ついで被告会社の指示により回答が行われてきたものであり、この点は組合側も十分に認識している。したがつて原告主張の各協定締結の事実をもつて劇場支配人に人事協議約款を締結する権限があつたとすることはできない。

被告会社は大和志子の退職につき福島東映労組と協議したことはない。

2 青木支配人は同四一年一月二三日の団体交渉において、本件人事協議約款を尊重すると福島東映労組に約した。この点からも本件人事協議約款は有効である。

2の点は否認する。

1の(一)の点は争う。

(被告の主張)

1 (一) 本件人事協議約款なる文書は田中支配人が真意でなく捺印した心裡留保によるものであり、相手方たる福島東映労組もこのことを知り又は知ることができた状況にあつたものであるから無効である。即ち、本件人事協議約款なる文書は映演総連全国東映労働組合連合(以下全東映労連という)のオルグ原田裕平が作成したものであり、組合側は普通の方法では田中支配人の捺印を求めることが期待できないので、同三七年一二月二八日深夜同支配人を多教の組合員で吊し上げ、しかもその際大した重要事項をもり込んでいない確認書(甲第九号証)を一つ一つ時間をかけて作成し、双方が捺印し終つてやつと田中支配人が一息ついたとき、すでに作成ずみであつた甲第八号証と同第一〇号証を同支配人の疲労に乗じ捺印させた。そして、同日昼頃組合側としては、福島市内のクローバー喫茶店において執拗に田中支配人を詰問し、同支配人をして遂に便所へ行くと称して逃げ出さしめた経緯から、田中支配人が甲第八号証に捺印することに真意を有しなかつたことは十分に認識しえたはずである。

(二)の点は争う。

甲第九号証の確認書は、同三七年一二月二八日昼、福島市内のクローバー喫茶店で田中支配人と話合つて文書の大略が作成されたものであり、又同確認書によれば、同日田中支配人は、組合の不当労働行為の主張を拒否し、女子時間外勤務、八時間労働制についても必ずしも組合の要求を認めておらず、定員制については現状で十分であると組合側の主張を突ぱねている。これらの点から考えて田中支配人は極度に疲労していたとはいえない。

田中支配人は原田裕平に対し取消しの意思表示をしたことはない。

(二) 本件人事協議約款なる文書の捺印当時の状況は、前述のとおり、多数人による深夜の脅迫によるものであるうえ、低血圧に加えて片側の肺の機能が停止しているため身体虚弱な田中支配人は、当日は精神的肉体的な疲労がその極に達し、体力の限界にきてやむなく本件人事協議約款なる文書に捺印したものであるので、田中支配人は翌二九日福島労組の代理人原田裕平に対し取消しの意思表示をした。

(三)の点は否認する。

(三) 本件人事協議約款なる文書は、同三七年一二月二九日田中支配人が福島東映労組代理人原田裕平に取り消す旨の申込みをしたところ、同人はこれに同意したので、失効した。

(四)の点は否認する。

(四) 本件人事協議約款は、労働組合法一五条四項により、田中支配人が福島東映労組代理人原田に対し取消しの意思表示をした日から九〇日を経過した同三八年三月二八日失効した。

(五)の点は争う。

存続期間の定めのない協約には同条項の適用はない。

(五) 本件人事協議約款は同法一五条四項により締結日から三年後である同四〇年一二月二八日の経過とともに失効した。

原告らは存続期間の定めのない協約には労組法一五条四項の適用がないと主張するが、これが適用されることは同条項の法意からみて明らかである。

2の前文の主張は争う。

2 仮に本件の人事協議約款が有効であるとしても、被告会社は福島東映労組と本件解雇問題につき次のとおり事前協議をしている。

(一)の点について、原告両名が被告主張の日に被告会社本郷取締役と青木支配人と一緒に千代寿司で会食し、その席上本郷取締役から福島東映劇場閉館の話が出されたが、原告らの身の振り方については、解雇、出向、傍系会社への転勤或は企業内での配置転換などいずれの確定的な意思表示はなかった。

又当日本郷取締役は原告両名を個人として呼んだのであつて、福島労組の代表者として呼んだのではない。

又当日は本郷取締役、青木支配人、原告両名は酒をくみ交わしながらの会談であつて、福島東映労組との協議としては態をなしていない。

更に、原告らは福島東映労組としての意思決定をしていないから組合との協議にはあたらない。

即ち、福島東映労組の組合員は原告両名を含む三人であり、内原告両名が解雇されると福島東映労組は存続しえなくなるので、全組合員で協議しなければ、被告会社の申出を承諾しえないし、このように福島東映労組が消滅するか否かを決定する本件解雇問題について、福島東映労組としては上部団体である全東映労連の関与なしに決定することはできない。

(一) 同四一年一月二〇日被告会社取締役本郷武郎は右青木支配人とともに、福島東映労組の執行委員全員である原告両名と福島市内の千代寿司の二階の旅館(第一旅館)の一室において、福島東映劇場の閉館及び全従業員の解雇について協議し、原告両名は福島東映劇場の閉館と従業員の解雇について諒承し、解雇後の就職の斡旋方を本郷取締役に依頼した。

原告らは千代寿司での集りは会食であり、酒席における話合いは協議にならないと主張するが、酒は話合いが終つてから飲んだものであり、酒を飲みながら話し合つたのではない。

仮に当日の寒さをしのぐためと緊張をほぐすため、協議事項の検討に入る前に若干酒が入つたとしても、それは酒の量、時間、場所などを勘案して具体的に決めるべきもので、両者間で多量に飲酒されない限り、当日の話合いが協議たる性格を否定されるものではない。

次に原告らは千代寿司では福島東映労組としての意思決定をしていないから組合との協議にはあたらないと主張するが、当時福島東映労組の組合員は三名であり、しかも執行委員は原告両名で、他の一名(大河内信子)は平組合員で団体交渉に一度も出席したことはなく、従来会社・組合間の協議における組合代表は原告両名に限られていたので、対外行為である「協議」においては原告両名が出席すれば、団体交渉は成立するのであり、仮にその場で協約に調印された場合、組合大会が開かれていないとの理由をもつてその協約を無効とすることはありえず、特に全東映労連の承諾を効力要件とする原告の主張は福島東映労組の単一組合性を否定するもので失当である。このことは次の事実からも明らかである。

原告両名が福島東映労組の組合事務所の移転要求に応じなかつたため、組合事務所の所有者である東映株式会社は、組合事務所移転の仮処分申請をしたが、裁判外で原告両名から委託をうけた地区労事務局長伊藤直則と和解した。全東映労連はこの和解をすることに全く関与していないばかりか、地区労幹部の行動を非難している。

(二)の点について、被告主張の団体交渉の行われたことは認めるが、被告会社は頭から原告両名の解雇を前提として交渉しているので、解雇を決定するまでの事前協議とはいえない。即ち、人事協議約款は人事同意約款ほど強力ではないが、一方的に決定を通告すれば足りるというものではなく、労使双方が信義則にしたがつて協議をつくすことを要件としているからである。ところで、福島東映劇場の閉館は、企業全体が破綻したわけではなく、同四一年一月一七日は決定されていたのであり、後記のとおり東映資本の一体性からみて、原告らの雇傭契約の存続を検討する余地は十分にあつたはずであり、被告会社だけをとつてみても、東北六県に事業所を有し、福島市内でも福島駅前東映劇場もあるから、配転をはかるなり、希望退職を募るなり、継続的雇傭の対策を検討する余地は十分にあつた。労使間の事前協議では右対策を信義則にもとづいて協議したうえ、解雇やむをえないということになつてはじめて解雇しうるのである。

この点の協議をつくさずになされた本件解雇の意思表示が無効であることは明らかである。

(二) 仮に同四一年一月二〇日協議がなされなかつたとしても、被告会社は、同年二月一日から翌二日にかけて、又同月一五日から翌一六日にかけて福島東映劇場の閉館と従業員の解雇問題につき福島東映労組と十分な協議を行つた。

(三)の点は否認する。

(三) 仮に協議がなされなかつたとする余地があるとしても、原告両名は同四一年一月二〇日千代寿司において解雇を承認したから、本件解雇の意思表示は無効ではない。

(四)の点は争う。

人事協議約款は規範的効力を有するので、これに違反してなされた解雇の意思表示は無効である。

(四) そもそも人事協議約款は債務的効力を有するにすぎないから、協議しなかつたとしても、債務不履行の責を負うにとどまり、解雇の意思表示を無効とするものではない。

三、(不当労働行為)

本件解雇の各意思表示は、原告両名が全東映労連傘下の福島東映労組の組合員で且つ組合活動をしたが故になされたものであつて労働組合法七条一項にあたり無効である。

以下その理由を、東映資本(東映株式会社)の実体、東映資本の不当労働行為、被告会社の不当労働行為に分けて述べる。

三の前文の主張は争う。

本件解雇には後記のとおり正当理由がある。

1 (東映資本の実体)

東映資本とは東映株式会社を指すが、同会社は昭和二六年二月設立され、四〇数社にのぼる系列会社を有し、被告会社もその一つである。

1の前文のうち東映株式会社が原告主張の日に設立され、被告会社を含む四〇数社にのぼる系列会社を有することは認める。

(一) 東映株式会社の主な系列会社は次のとおりである。

(1) 映画製作部門

株式会社東映東京製作所、株式会社東映京都製作所、東映動画株式会社等。

(2) 映画興業部門

北海道東映興業株式会社、東北東映興業株式会社、東映興業株式会社、東海東映興業株式会社、信越東映興業株式会社、北陸東映興業株式会社、関西東映興業株式会社、九州東映興業株式会社等。

(3) ボーリング部門

株式会社横浜ボーリングセンター(昭和三九年五月設立)、株式会社千葉東映ボーリングセンター(同四〇年一一月設立)、株式会社釧路東映ボーリングセンター(同四一年三月設立)、株式会社札幌ボーリングセンター(同年六月設立)、株式会社福島東映ボーリングセンター(同年秋設立)。

(4) その他

株式会社湯沢東映ホテル、株式会社新潟ホテル、株式会社釧路東映ホテル、東映タクシー株式会社、東映不動産株式会社等。

(一)の各点は認める。

(二) 東映株式会社と系列会社との関係は次のとおりである。

(1) 系列会社が使用している劇場、ボーリング場、ホテルの土地建物及び動産類は殆んど東映株式会社の所有である。

(1)の点につき、必ずしも原告主張のとおりではない。

(2) 系列会社の大部分はせいぜい一〇〇万円台の資本金でその株式の大部分は東映株式会社が所有する。

(2)の点は不正確である。

(3) 系列会社の代表取締役その他の役員は大川博をはじめとする東映株式会社の役員によつて兼任され、ボーリング部門の会社の代表取締役は大川毅(大川博の息子)であり、映画興業部門の各会社の取締役には東映株式会社興行部長本郷武郎が就任している。

(3)の点につき、大川博が代表者になつているものはいくつかある。本郷は関西、九州、北海道、東北、東海、信越、北陸の各興業会社の取締役である。

大川毅が代表者をしているものは原告主張の会社の中にはない。

(4) 以上(1)ないし(3)の点から考えると、東映の各系列会社は東映株式会社の完全な支配下にある子会社ないしはトンネル会社であり、事実上は一身同体である。

(4)の点は争う。

(三) 東映株式会社と被告会社との関係を詳述すれば次のとおりである。

(1) 被告会社の代表取締役は、東映株式会社の代表取締役の大川博であり、被告会社の取締役は東映株式会社興行部長本郷武郎である。

(1)の点は認める。

(2) 被告会社の資本金は僅かに五〇万円であり、その株式はすべて東映株式会社が所有する。

(2)の点につき資本金が五〇万円であることは認めるが、その余は否認する。

(3) 被告会社は東映株式会社から劇場経営に関する業務の委託をうけて劇場を経営している。劇場経営の収入はすべて東映株式会社に帰属し、被告会社は経費プラス利益金の〇・一%に相当する委託手数料を東映株式会社から支払をうける。劇場の土地建物は東北一〇数館中一、二の賃借館を除きすべて東映株式会社の所有である。

(3)の点は認める。

ただし一二館中六館が賃借館である。

(4) 以上の点から考えると、被告会社は全く資産の裏付がなく、経営陣も東映株式会社で握つている全くのトンネル会社である。

(4)の主張は争う。

2 (東映資本の不当労働行為)

(一) 従前は東映株式会社の社員一三〇〇名が東映労働組合を組織しているにすぎなかつたが、昭和三四―五年頃からTVの普及などにより映画産業の斜陽化が叫ばれ、これに加えて東映株式会社の第二東映系列会社創設の失敗から、東映系列会社の従業員は、身分保障を求め、次のとおり続々と労働組合を結成した。即ち、同三五年大阪東映会館(三劇場)労働組合が結成され、同年六月京都撮影所臨時者が東映従業員組合を結成し、既存の東映労働組合に合体し、東京撮影所臨時者も同労組に加入し、俳優だけが東映従業員組合を結成しており、同年六月九州東映興業労働組合が、同年九月東映商事労働組合及び東映動画労働組合が、同年盛岡東映労働組合及び和歌山東映労働組合が、同三七年一二月福島東映労組がそれぞれ結成された。

これらの組合は東映資本に対応して単一組合であるべきであるが、全東映労連という形で統一している。

2の(一)の点につき、昭和三四―五年頃からTVの普及により映画産業が斜陽化の一途を辿つたこと、同三四年五月八日東映テレビ株式会社が第二東映株式会社となり、同三六年一二月東映株式会社に吸収されたことは認めるが、その余は知らない。

(二) 東映資本は組合を嫌悪し、不当労働行為を反復継続しているが主なものは次のとおりである。

(二)の前文の主張は争う。

(1) 俳優の東映労組加入を拒否しており、東映労組側も妥協せざるをえず、下積み俳優のみの従業員組合として東映労組とは別に成立している。

(1)の点は否認する。いつでも一体となれるのに現在も一体となつていない。

(2) 九州東映労組が結成されるや、執行委員長三輪次雄に強制配転を命じ、抗議ストに入つたところ懲戒解雇した。

(2)の点につき、九州東映興業株式会社が同三六年九月一日九州東映労組委員長三輪次雄を配転したことは認めるが、その余は否認する。

本人は依願退職したのであつて、懲戒解雇されたのではない。

(3) 同三七年秋東映労組副委員長が強制的に非組合員に身分変更され、もつとも活動的職場であつた東京撮影所演出部の者数名を劇場への配置転換を勧告した。

(3)の点は否認する。

東映興業株式会社は、同三七年一〇月三一日付にて、東京撮影所製作部美術課装置第二係技術員穂積肇及び同装置第二係背景班長高橋繁雄の両名を契約者に切り替えた。これはいずれも本人の同意をえて行つた。右穂積は同三七年二月から九月まで東映労組副委員長であつたが、切り替えのときは組合役員ではない。

又東映株式会社は同三七年八月に助監督に興行価値を学ばせる目的で劇場研修を提案したことはあるが、劇場への配転勧告をしたことはない。

(4) 同三八年八月東映労組東京撮影所支部副委員長植田泰治を強制配転した。

(4)の点につき、東映株式会社が同三八年八月一日付で配転したことは認めるが、その余は否認する。これは適材適所の見地にたつ正当なる配転である。

(5) 同三九年東映従業員組合副委員長山内光男を解雇した。

現在京都地方労働委員会に係属中である。

(5)の点につき、山内に演技力がなく、又映画界も不況になつたので、同人との間に締結されていた優先本数出演契約が同三九年一月三一日期間満了により終了したので、その後東映株式会社と山内との間に新たな契約が締結されなかつただけである。

(6) 同年六月東京撮影所支部委員長高岩震を解雇した。

現在解雇無効確認等の訴が東京地方裁判所に係属中である。

(6)の点につき、高岩を解雇したことは認めるが、それは同人が業務上の書類を持ち出したからである。

(7) 同年六月東映労組役員五名を停職処分にし、東映動画労組三役を懲戒解雇した。

(7)の点につき東映労組の役員は業務妨害をし、東映動画労組の役員は違法ストなどを行つたので、処分した。

(8) 同四〇年一二月東映の二撮影所で組合活動家を集中的に強制配転をした。

(8)の点は否認する。

同四〇年映画界の不況を乗り切るための新製作体制を確立するため、従業員の選抜を適材適所の見地に立つて適正に行つた配転である。

(9) 同年一二月京都より組合活動家を大量に強制配転し、内二名を懲戒解雇した。

現在京都地方労働委員会に係属中である。

(9)の点は否認する。

現に京都地方労働委員会に係属している大谷庸郎は休職期間満了により解雇されたのであり小山誠司も同じ理由により解雇されたものである。

(10) 本件解雇問題につき福島東映労組の闘争を指導した報復措置として、同四一年二月当時の全東映労連中央執行委員長久岡敬史、東映労組東京撮影所支部副委員長神中貞夫の両名を出勤停止処分にした。

現在東京都労働委員会に係属中である。

(10)の点につき、久岡は業務上の書類を持ち出したので、東映動画株式会社が久岡を出勤停止三日の処分をし、神中は無断欠勤したので、株式会社東映東京製作所が停職五日の処分をした。

(11) 同じく報復措置として、全東映労連事務局長小松茂、同労連中央執行委員植田泰治の両名を演出助手から企画事務員に強制配転し、同年八月小松をPR分室に、植田を本社テレビ部に再配転した。

(11)の点につき配転したことは認めるが、その余は否認する。

3 (被告会社の不当労働行為)

(一) 福島東映労組の結成の経緯及び活動は次のとおりである。

(1) 福島東映劇場、福島駅前東映劇場の各従業員は全くの無権利状態におかれた。職場の不満は会社の主催する懇談会で解決するといわれてきたが、それは二か月に一度程度しか開かれず、作業衣と交通費の支給、水呑場と女子更衣室の設置などの要求も一向に入れられず、賃上げ、賞与なども本社と大差があり、職場には不満が積み重つていた。そして東映資本の第二東映方針が失敗し、従業員に身分上の不安を与えた。

(一)の(1)の点は否認する。

(2) このような状況の下に、盛岡東映労組から組合ニユースが送られてきた。そして、昭和三七年の冬の一時金の支給は盛岡が福島よりはるかに有利に解決されたことが伝えられ、福島東映劇場、福島駅前東映劇場の従業員に深刻な反響を呼んだ。そこで原告持地は数人と相談し、盛岡東映労組竹田委員長の指導をうけ、同三七年一二月二〇日全従業員二二名中一八名をもつて福島東映労組を結成し、原告持地が執行委員長となつた。

(2)の点につき、福島東映労組が結成されたことは認めるが、その余は知らない。

(3) 原告持地は、福島東映労組の執行委員長として、被告会社に対し、同年一二月二一日人事の事前協議制、交通費支給、時間外手当の完全支給、定員制度の確立、八時間労働の諸要求を内容とする要求書を提出し、団体交渉の申入れをした。

被告会社は右の申入れを拒否しつづけてきたが、結局同月二八日団体交渉に応じた。そして福島東映労組と被告会社との間で人事協議約款を含む労働協約が締結された。

(3)の点は知らない。

人事協議約款は締結されていない。

(4) 原告持地は同四〇年九月まで福島東映労組の執行委員長として、その後は同労組の副委員長として活躍し、原告佐藤は同三八年から同労組の執行委員として、同年一〇月以降は同労組の執行委員長として活躍し、その間毎年賃上げ、一時金の支給などにつき被告会社と協定してきた。

(4)の点は知らない。

(二) 被告会社が福島東映労組が結成されると、団体交渉の申入れを拒否し、組合員の切崩工作をしたので、福島東映労組の組合員は、結成後一〇日たらずして四名脱退し、その後二か月の間に四名脱退し、現在は遂に原告両名と福島駅前東映劇場の女子従業員一名の僅か三名となつた。

(二)の点につき、福島東映労組の組合員が原告両名と女子一名の三名であることは認めるが、その余は否認する。

(三) 被告会社の原告両名に対する差別処分は次の各事実から明らかである。

(三)の前文の主張は争う。

(1) 原告両名と同時に解雇された者の中非組合員丸山キチ、前田道路子の二名が現在福島駅前東映劇場で働いている。

被告会社は同人らを一旦解雇したうえ再採用したと主張するが、福島東映劇場から福島駅前東映劇場に移る間の期間の短かさ、待遇などからみて、その実質は継続雇傭である。

(1)の点につき、丸山キチ、前田道路子の二名が福島駅前東映劇場で働いていることは認めるが、その余は否認する。

被告会社福島東映両劇場の青木支配人は丸山キチを清水建設株式会社へ、佐々木千代子を福島市内の万正堂万年筆店へ、前田道路子を自転車屋へ就職斡旋したところ、たまたま福島駅前東映劇場の女子雇員渡辺が退職したので、右前田をこの補充に当てた。そして、福島東映劇場が閉館となり福島駅前東映劇場が封切館となり雇員の定員が一名増加したので、菅野八郎を臨時雇員として採用した。同四一年夏、福島駅前東映劇場臨時雇員林京子が退職したので、青木支配人は、丸山キチと佐々木千代子に福島駅前東映劇場への再就職を勧誘したところ、佐々木は万年筆店でそのまま働きたいとの返事であり、丸山が戻りたい意向であつたので、同人を採用した。原告両名は映写技師で職種が異なり、福島駅前東映劇場には定員がなく採用できなかつた。

(2) 福島東映劇場跡に建設された東映ボーリングセンターに、原告両名とともに解雇された非組合員内山勝男、高橋勝躬、千枝八郎(旧姓菅野)の三名が雇傭されている。ところで、右の三名は同四一年二月一五日福島東映劇場を閉鎖するとき、朝早くから青木支配人らと一緒に劇場入口をロープでしばつて、組合側を劇場内に入れないようにした。現在この三頼人がボーリングセンターに勤めているのである。又千枝は閉館後福島駅前東映劇場で働き、その後ボーリングセンターに働いているので、結果的には東映系の会社から離れたことがない。

高橋は閉館後就職せずにいてボーリングセンターに入つた。

内山は閉館後清水建設に入り、ボーリングセンターに入つたということであるが、内山が清水建設に入つたのはボーリングセンターが出来上るまでのつなぎに過ぎず、東映資本と清水建設が通謀して一旦は東映外の企業に就職したように見せかけたものである。

(2)の点につき、内山、高橋、千枝が株式会社福島東映ボーリングセンターに勤めていることは認めるが、その余は否認する。福島東映劇場閉館より五か月を経過した後、株式会社福島東映ボーリングセンターが開館することになり、従業員多数を公募した。内山、高橋、千枝の三名は右公募に応じ、筆記・面接試験を経て採用された。決して優先採用したものではない。これに反し原告両名は、解雇撤回を主張するのみで、就職斡旋の依もせず、株式会社福島ボーリングセンターの公募の事実を知りながら、これに応ぜず、自から株式会社福島東映ボーリングセンターの従業員になりうべき機会を放棄した。

被告会社は決して原告両名を差別したものではない。

(3) 福島東映劇場の全従業員中非組合員で東映系列会社で働いていないものは福島市内の万正堂万年筆店で働いている佐々木千代子ただ一人であり、他は、前述のとおり福島駅前東映劇場、ボーリングセンターに雇傭され、組合員である原告両名は解雇されたままである。

(3)の点につき、佐々木千代子が万正堂に勤めていることは認める。

(4) 被告会社の本郷取締役は同四一年二月一五日原告持地の母に対し「組合を脱けるなら、福島東映劇場閉館後何かになつたら優先的に採用してやつてもよい。それまでの間は清水建設に斡旋する。」「全東映は共産党で真赤な赤だ。今ここで全東映の赤にふりまわされたのでは真赤になつてとり返しのつかない状態にされてしまう。」と発言している。

(4)の点につき、本郷取締役が原告主張のごとき発言をしたことは否認する。

(5) 同年一〇月一二日東映株式会社石田勤労部長は原告持地の母に対し「今となつては時期もおそい。もう少し早くだつたら持地君をボーリング場の方へ回されないとも限らなかつた。持地君だけボーリング場に入れ、佐藤君を入れないわけにはいかない。佐藤君はどうしても性格が気に入らないから困るんだ。」と言つた。

(5)の点は否認する。

(6) 被告会社の本郷取締役は全東映労連を嫌悪し、本件解雇問題についても全東映労連が入つてきたら話し合わないと決めていた。

(6)の点は否認する。

4 以上1ないし3に述べたことから考えると、東映資本内の企業では法人格を異にしても、東映資本の意思一つで雇傭関係はどうにもなるのにかかわらず、福島東映劇場の閉館を機会に労働組合員を東映資本内から排除しようとしたのが、本件の閉館、全員解雇のからくりであると断ぜざるをえず、本件解雇の各意思表示はいずれも無効といわざるをえない。

4の主張は争う。

四、(解雇権の濫用)

本件解雇は次のとおり解雇権の濫用であるので無効である。

四の前文の主張は争う。

1 被告会社と東映株式会社との関係は前述のとおりであり、東映資本は全体として大きな黒字であり、従業員を解雇しなければならないやむをえない経済状態ではない。

映画部門でさえ収益率が減少したというだけで、入場料収入の絶対額は減少していない。

福島東映劇場の福島ボーリングセンターへの切替は、全国的な東映資本の多角経営のスケジユールの一環にすぎない。

1の点は否認する。

会計学上も税法上も東映資本の黒字というものは存在しない。株式会社福島東映ボーリングセンターは福島東映劇場を切り替えたものではなく、全く別個のものである。

2 福島東映劇場の閉館は事業の縮少にあらずして事業の拡大であり、従業員の生活保障について事前協議するのに最も適している。被告会社に限定してみても希望退職者を募るなり、他劇場の定員を増加するなりして閉館に伴う一方的な解雇を避ける余地は十分にあつた。

2の点は否認する。

福島東映劇場の閉館は、事業の縮少であり、株式会社福島東映ボーリングセンターの設立と開業は会社の設立と開業であつて、両者間に直接関連はなく、期間も半年近く経過している。そして別会社であり、業種も違うところから株式会社福島東映ボーリングセンターとしては、その従業員を新聞、立看板で公募したものであり、被告会社としては別会社の人事について権限を有するものではなく、又そういつた事項について協議の対象とする義務や可能性は存しない。

3 よつて、本件解雇は継続的契約関係における信義誠実の原則に反し解雇の自由の濫用であつてその各意思表示はいずれも無効といわざるをえない。

3の主張は争う。

継続的契約たる労働契約において、事業所閉鎖に伴う解雇を否定するのは、生存権の保障まで使用者に要求するもので、現行資本主義憲法の解釈としては許されない。

(一)の点につき、被告会社が東映株式会社から業務委託をうけ劇場経営していることは認める。

(解雇の正当性についての被告の主張)

1 被告会社の内容について

(一) 被告会社は劇場経営、広告等を業とし、原告主張のように東映株式会社から委託をうけ劇場の経営をしている。即ち、同三二年三月以降仙台東映劇場、仙台東映パラス劇場、盛岡東映劇場の三館について、同三二年五月福島駅前東映劇場について、同三五年六月福島東映劇場についてそれぞれ業務委託をうけた。そして被告会社が東映株式会社から業務委託をうけた映画館は同三五年上期において八館、福島東映劇場を閉館した同四一年二月一五日現在において一二館であつた。

(二)の点につき、事務係、映写技師が職員であることは認める。

(二) 被告会社の各劇場勤務の従業員は、支配人(劇場の管理者であつて、商法上の支配人ではない。)、事務掛、映写技師、処務掛(掃除、看板貼り、スチール写真の取換えなどの仕事をする。)、営業掛(切符切りなどの仕事をする。女子従業員がこの仕事をする。)に分れ、事務掛、映写技師は職員であり、営業掛、処務掛は雇員である。

そして、職員、雇員の本採用は社長の決裁によるが、臨時雇員の採用は支配人の権限事項とされている。

各劇場の定員はその劇場の規模、業績により定められている。

(三)の点につき原告両名が映写技師であることは認めるが、その余は否認する。

(三) 被告会社に勤務する従業員には労働契約上次の三種がある。すなわち、東映株式会社の身分を有する出向社員、大学を卒業し東映興業株式会社に定期採用された後被告会社に転籍された支配人候補の従業員(この者は転籍とともに東映興業株式会社の従業員の身分を失う。)及び各劇場単位で現地採用された従業員である。それに支配人という特殊な従業員を含めると四種類となる。

そして現地採用の従業員は、劇場単位で採用され、劇場と運命を共にすることが当初の労働契約の内容となつている。

原告両名はいずれも現地採用の従業員で映写技師である。

2の点につき、被告会社が東映株式会社から業務委託をうけ福島東映劇場を経営していたことは認めるが、その余は否認する。

被告会社は赤字を理由に福島東映劇場を閉館したと主張しているが、東映株式会社はホテル、ボーリング場などの付帯事業優先の経営政策に重点をおき、映画部門と付帯事業との資本投下の比率を五〇対五〇までに引き上げようとし、本件の閉館解雇は右の東映株式会社の経営方針に由来するものである。

2 福島東映劇場閉館事由について

福島東映劇場は、同三五年六月被告会社が東映株式会社からその営業に関する一切の業務委託をうけ、爾来同四一年二月一五日の閉館まで営業してきたが、その間同劇場の営業収入は被告会社の努力にもかかわらず発足当初から所期の成績をあげることができず、毎決算期ごとに赤字となり、その負債は累積の一途を辿つた。

福島東映劇場の発足以来の劇場収入は次のとおりである。

同三五年 上期 プラス  九五、五八〇円

下期 マイナス 一、六九七、六一四円

同三六年 上期 〃    六三四、二二四円

下期 〃    二、一五四、一八八円

同三七年 上期 マイナス 一、四三二、三三四円

下期 〃    八四六、九九二円

同三八年 上期 〃    一八〇、九四六円

下期 〃    三〇四、五六七円

同三九年 上期 〃    一〇三、二三八円

下期 〃    一、五四〇、二五五円

同四〇年 上期 〃    二、五七一、一二六円

同四〇年下期(同四一年二月末決算)は一、九四二、七一一円の赤字が生ずることが予測された(事実同期は三、二九一、九一一円の赤字であつた)。そして、今後も赤字の累積をつづけるであろうことは、我国の映画観客動員数が同三三年をピークとして激減し、現在もなお低下の傾向にあること、東北地方では特に右の傾向が著しかつたこと、特に被告会社は福島市において福島東映劇場と福島駅前東映劇場の二館を経営しており、両劇場が少い映画観客を奪いあう結果となつていることから明白に推認できる。

そのため、東映株式会社は、同四一年一月一一日、福島市内において二館の経営を被告会社に委託していくことは採算があわないので、内一館の業務委託を打ち切らざるをえず、立地条件、その他劇場経営のための条件のよい福島駅前東映劇場を封切館として残し、福島東映劇場に関する業務委託契約を打ち切ることに決定した。被告会社は右決定による福島東映劇場の受託契約終了に伴い、福島東映劇場の閉館を決定した。

3の点は否認する。

3 解雇理由について

被告会社は福島東映劇場閉館に伴い、同劇場の従業員を他の劇場へ配転するか、又は解雇するか、いずれかを決定しなければならなくなつた。ところで福島駅前東映劇場は定員九名で在籍人員も一杯であり、福島市以外の他の劇場も欠員がなく、更に郡山東映劇場閉館(賃借期間終了による)を目前に控え、被告会社としては配転不能の状況にあつた。

又親会社である東映株式会社においても、映画界の不況に伴う人員整理等の岐路に立たされ、同四〇年八月以降「製作新体制」と称して、製作スタツフの削減、製作日数の短縮、作業の効率化、冗費の削減など相次いて合理化を実施し、余剰人員を吸収する可能性は全くなかつた。更に原告らの労働契約の内容は、現地採用で劇場に付属する性格が強いもので、契約が存続するのは、在籍劇場が存続する間にかぎるか、少くとも勤務場所が劇場所在都市にかぎることが双方の合意の内容とされていた。これらの点を考え合せて原告両名を含む全従業員を解雇した。

同四一年五月郡山東映劇場を閉館したが、この時も全従業員を解雇した。

4 以上1ないし3で述べたとおり、原告両名の解雇には正当な理由があり、不当労働行為にも、解雇権の濫用にもあたらない。

第四、(原告らの権利)

1 原告両名は被告会社に勤務し、本件解雇の意思表示がなされた当時、原告佐藤は月額三〇、二八三円の平均賃金を、被告持地は月額三四、一八一円の平均賃金をえていた。

1の点につき、原告両名が被告会社に勤務し、同四一年二月二〇日付で解雇されたことは認めるが、その余は否認する。

解雇当時、原告佐藤は二万円の、原告持地は二二、四〇〇円の基準賃金の支払いをうけていた。

2 右賃金は毎月前月一五日から当月一四日までの賃金を当月二五日に支払われていた。

2の点につき、賃金が毎月二五日に支給されていたことは認める。賃金計算期間は前月一六日から当月一五日までである。

3 前述のとおり原告両名に対する本件解雇の意思表示はいずれも無効であるから、原告両名はそれぞれ被告会社に対し右賃金の支払いを求める権利を有する。

3の点は否認する。

第五、(結論)

以上の理由により、原告両名は、被告会社に対し、

1 被告会社と原告両名との間に雇傭関係の存在することの確認を、

2 原告佐藤につき賃金三六三、三八四円(本件解雇の意思表示のなされた日の属する月の翌月である同四一年三月から同四二年二月までの一二か月分の賃金)及び同四二年三月以降毎月二五日限り三〇、二八二円の支払いを、

3 原告持地につき賃金四一〇、一七二円(同じく同四一年三月から同四二年二月までの賃金)及び同四二年三月以降毎月二五日限り三四、一八一円の支払いを、それぞれ求める。

第五の主張は全部争う。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例